北朝鮮の憲法改正と軍国主義

先軍政治(軍国主義)を最優先する金正日は、一九九八年に憲法を改正し、国防委員会を「国家主権の最高軍事指導機関」と規定した。また主席制度を廃止して国家最高権力者を国防委員長とし自ら就任している。この時から北朝鮮の最高意思決定機関は国防委員会となり、全国力を再南侵計画の侵略工作(核兵器とミサイルの開発と軍の強化)に投入し、工作組織も再編し臨戦態勢を構築してきた。

それ以前は、北朝鮮の最高意思決定機関は指導政党の朝鮮労働党であった。
社会主義革命を掲げる同国憲法には「朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮労働党の領導下」と明記されていた。これは国より党が上位にあるという意味である。金正日は国より党、党より軍、即ち国防委員会を最上位の意思決定機関にした。

朝鮮労働党中央委員会は、党大会を開催し、党大会の決定事項を具体的に組織化し、関係機関への指導を行い、政治局と政治局常務委員、書記局と総書記の構成員を選び、政治局は党事業の決定・指導権を持つ。政治局常務委員および政治局委員は党の最高幹部といえる。

そして戦時体制の予行演習なのか人民総動員令による「百五十日戦闘」を開始した直前の二〇〇九年四月に、なんと国際社会には秘して、北朝鮮憲法が、またも改正されていた。

 改正憲法の第6章「国家機構」に「国防委員会・委員長」という節を新設し、国防委員長は北朝鮮の「最高領導者(指導者)」であると規定し、その任務と権限は@国家の全般的事業を指導A国防委員会事業を指導B国防部門幹部を任命・解任、C重要な条約の批准・廃棄、D特赦権、E国の非常事態、戦時状態、動員令の宣布等を挙げていた。且つ「共産主義」の言葉を憲法から削除し「先軍(軍事優先)思想」を北政権が目指す最優先の「指導的指針」と位置づけていた。
 判りやすく云えば国より党、党より軍、軍より金正日一人が国家の全ての7指導(決定)をする権限を有することを憲法にまで、規定したということである。
 早い話が、国家の事業も、人事も、外交も、戦争決行もも、全て金正日一人が決定権を持つという、完全独裁憲法を制定していたのである。また、それを知る中国を始め多くの国の首脳も黙認していたのである。

 国家の重要な条約の批准・廃棄、非常事態、戦時状態、動員令の宣布等を決定する任務と権限を持つのは、軍部最高幹部である国防委員長の一人だけであると規定し、加えて「先軍(軍事優先)思想」を国家の指導的指針とし、名実共に民主主義を完全に否定排除した軍国主義独裁体制を確立し、金正日の独断専行で核兵器と生物化学兵器を搭載したミサイルを韓国と日本の全土に発射する「核戦争」「侵略戦争」の決行が、可能になっていた。

人類史上初と言える驚愕のテロ国家憲法を制定していたのである。
 にもかかわらず国際社会は秘めていたのである。何故なのか。

 二〇〇九年八月十五日には、朝鮮労働党機関紙の労働新聞の社説で「先軍政治」の正当性を強調し、「強盛大国」の二〇一二年実現を目指す「総進軍」を促していた。

 労働新聞の社説では南北統一は故金日成主席の懇切な遺訓であり、民族至上の課業だとし、南北共同宣言と南北首脳宣言の価値を高々と掲げ、統一闘争をさらに果敢に進めるよう改めて訴え、日本植民地からの解放は、金日成主席の功績であり、この抗日闘争で金日成主席が「先軍の始原を開き、百戦百勝の先軍思想と伝統を整え、社会主義強国建設の『万年礎石』を固めた」とアピールしていた。

また「先軍政治」は金日成主席の先軍領導の業績を輝かしく具現し、独創的な方式を確立したものだと正当性を強調していた。

 この社説文中の抗日闘争で…「先軍の始原を開き…」とは、何を示唆しているのか。
 「抗日闘争」とは、「敵国日本と抗戦する闘争」と解釈できる。
 「先軍」とは、「軍事力増強、大量殺戮破壊兵器の開発」と解釈できる。
 「始原」とは、「始まりの原点」、「究極目的である」と解釈できる。
 「具現」とは、「具体的に現す」、「現実に実行する」と解釈できる。
 現実に北政権は過去六十数年間、北朝鮮だけでなく韓国と日本を含む北東アジア全域で「先軍の始原を開き…具現する」侵略工作を実行してきた。

 スターリンの忠臣・金成柱(故金日成=金日成将軍の偽者)は、北東アジア占領のため先ず北朝鮮を占領し、先に韓国、後に日本占領を企図する6・25南侵を決行し失敗した。以後、韓日の同時侵攻を目論む再南侵決行を企図し、在日と日本人を拉致し極秘裏に日本を北の工作基地にした。

 そして、韓国の朴正煕大統領の暗殺を企図した陸英修女史射殺テロ、全斗煥大統領の暗殺を企図した「アウンサン廟」での韓国政府要人暗殺テロなどを実行した。

 一方で韓国を侵略する侵攻用地下トンネルを掘った金成柱は、一九六〇年代から生物・化学兵器の開発を開始し、現在は二千五百から五千dの生物化学兵器を複数の施設に分散保管(韓国国会国防委員会資料で二〇〇九年十月五日に公開)している。

 また金正日は核兵器とノドン・ミサイル数百基を開発し、複数の秘密地下発射基地に実戦配備し、約七百万人の軍隊を編成しているという。この狂気の侵略計画とテロ、そして軍拡を実行してきた「現実の証」及び憲法改正と労働新聞の「文献の証」が「先軍思想とは戦争を肯定する侵略思想であること、そして強盛大国の実現とは北東アジアの統一国家実現だ」という説(解釈)を立証していると思う。

 先軍思想とは軍拡と侵略だけではない、軍人が銃剣で国家と人民を拉致、脅迫、洗脳、粛清する軍事統制思想なのである。

 人を虫けらのように殺す金正日の粛清を知り尽くしている北朝鮮人民は、殺したいほど憎い金正日に熱烈忠誠を装う演技をするのは、生き延びるためには仕方が無いからである。北朝鮮人民は、北朝鮮の解放を只ひたすら待ちわびている。
 この世には知られざる秘境があるが、北朝鮮こそ、拉致と粛清の秘境である。
 朝鮮総連が宣伝した「地上の楽園」ではなく、悪魔に占領された「地上の地獄」であった。

 先軍思想が国家指針であること自体が人権侵害なのである。北朝鮮では民主的な選挙制度がない。
 国家の政策も政府の人事も、総ての権限を金正日が独占している。
 
 この先軍思想の北政権を作り操縦してきた元祖は、旧ソ連のスターリンである。
 スターリンのソ連軍とソ連軍人の金成柱を首領とする秘密工作組織『祖国戦線』が北朝鮮を植民地にした歴史的背景を検証し、虚構の国である北朝鮮の真実を、周く知らしめるべきである。

 北送拉致された在日と日本人家族が北政権の過ちを公開糾弾すべきである。

 二〇〇八年十一月十五日、拉致犠牲者の市川修一さんの母・トミさんが他界した。
 トミさんは「一日も早く、修ちゃんに会いたい。修ちゃんがどんなに苦労しているかと思うと、涙が滝のように流れる」と語っていた。
 悲しみを抑え約三十年の歳月、ひたすら息子の「修一を返せ!」と訴えてきた。
 長男の健一さんはトミさんの霊前で「修一を必ず取り戻すからね」と誓いの言葉を告げている。
 拉致家族会の増本照明事務局長は「拉致問題は放置されている」と無念の思いを訴えていた。

二〇〇二年に金正日が拉致を認め、ようやく日本政府は拉致の実態を初公開した。
 日本のマスコミも一斉に北政権の人権侵害を報道した。拉致の事実を知った日本国民は激怒し、拉致犠牲者全員の救出を訴えている。

 だが、在日組織は無言である。朝鮮総連らは今も北政権に盲従している。
 在日は民団一世の強靭な北送反対運動と北政権糾弾精神を学ぶべきである。

 二〇〇六年十月、国連安保理は拉致問題を放置し、核兵器とミサイルの開発に関与する団体・個人の資産凍結と大型通常兵器の移転阻止などを盛り込んだ対北制裁決議一七一八を採択した。

 二〇〇九年六月、国連安保理は、北朝鮮への物と金の流れを封じ込める武器輸出の全面禁止、貨物検査と金融制裁等、国連の制裁決議一八七四を全会一致で採択した。

 二〇〇九年九月四日、米国のギブス大統領報道官は「国連安全保障理事会で決議された制裁を強力に実行し続ける。我々の目標は韓半島を非核化することだ」と発表した。

 この日までに国連人権理事会の北朝鮮問題担当ムンタボーン特別報告者が、北政権による「広範かつ組織的で忌まわしい人権侵害を阻止する勧告」を要請する報告書を総会に提出していた。

遂に北政権の人権侵害が国連で注目されるようになった

 そして二〇〇九年九月二十四日、国連史上初めて米国の大統領がチェアマンを務め中国とロシア等の各国首脳が出席した前例の無い国連安全保障理事会の核軍縮会合が開催された。 事実上、国連安保理の初の「核軍縮サミット」であったといえる。
 この会合で「核兵器のない世界」を目指す決議一八八七が全会一致で採択された。国連を無力化してきた東西軍事大国の理不尽な拒否権行使を阻止したのは、核兵器の拡散とテロの阻止のみか、世界同時不況の克服を目指す国際協調も影響していた。

 北政権を作り育て利用してきた二十世紀の軍事大国による植民地拡大政策は、核兵器の拡散のみか、一方で現在の世界同時不況を発生させる元凶でもあった。
 軍縮実現は、軍事費削減という世界経済再生の抜本的な解決策実行でもあった。
 核兵器拡散と拉致は、二十世紀の軍拡競争が実行させた過ちであった
 戦争の世紀・二十世紀の過ちに気付き始めた国際社会が償いの道を歩み始めた。

 国連安保理の議長を務めた米国のオバマ大統領は会合で、核兵器の拡散と使用を「全人類と国家に対する根源的な脅威」と位置付け、「国際法は空虚な約束ではなく、条約は必ず施行されるべきだ」とし北政権とイランの安保理決議違反には安保理が対抗措置を取る責任があると述べた。

 また同日、国連本部で開催された包括的核実験禁止条約(CTBT)の第六回発効促進会議でも、条約発効の早期署名を訴える宣言が、全会一致で採択された。

 発効要件国は四十四ヵ国あり、米国や中国、北朝鮮、インドなど九ヵ国が批准していないことから、米国のクリントン国務長官は「条約批准のため上院に意見と同意を求めると共に、条約発効に向け他国の批准も得られるよう取り組む」と決意を述べた。

 二〇〇九年九月三十日、国連安保理は紛争地帯での女性や子供への性暴行の停止等を国連に求めた決議案を全会一致で採択した。米国のオバマ政権の国連重視姿勢は、国連が北朝鮮問題を解決できる舞台であることを示した。
 ようやく一極集中主義の時代が終焉し、国際協調の時代、国連の時代が開幕した。

 北政権は再南侵決行のための生物化学兵器に加え、核ミサイルを開発保持した。
 残る課題は、米国の参戦を阻止する米朝国交回復と不可侵条約の締結、食糧と物資の調達確保であるという。そのため、米国との二国間協議の実現工作を水面下で展開した。
 韓国政府に対しても、見返り対北支援を求める「偽装対話」を水面下で推進した。

 だが、過去の前科と国連決議の経済制裁により、北政権の思惑は挫折している。
 そのため仕方なく、二〇〇九年八月の現代グループ玄貞恩会長の訪朝を契機に、中断してきた金剛山観光の早期再開、陸路通行と滞在に関する制限解除、開城観光の再開と開城工業団地の活性化、白頭山観光の開始等の経済事業と南北離散家族再会実施を決めたと思われる。南北離散家族の再会を協議する南北の赤十字会談を緊急に同八月に開催し、翌九月の二十六日から十月一日まで金剛山で慌ただしく実施した。

 この事業で金剛山に同行した韓国・大韓赤十字社の柳宗夏総裁に対して、北朝鮮赤十字会の張在彦中央委員長が事業再開に対する「好意」を示すべきだと要求したことが、実施翌日の二十七日に明らかになった。異例の短い準備期間で急いで実施した人道事業の狙いが米国と日本政府への揺さぶりと対北食糧支援の獲得とは、卑劣極まりない。

 だが一方で、北朝鮮経済の崩壊と農業が疲弊し再起不能状況にあることが示されたといわれている。世界の専門家が北政権の崩壊を確実視する声が高まっている

 日本でも民主党政権誕生を契機に「万景峰号の再就航」「日朝国交会」による対北支援を求め、朝鮮総連らと深い繋がりのある日本の政治家、学者、評論家、左翼団体への接触が開始されたという。

 二〇〇九年十月四日、国家元首ではない中国温家宝首相の訪朝に際して、金正日が直接空港まで出向き、大女優のホン・ヨンヒや数十万人の人民を動員し熱烈歓迎した。異例の歓迎接待を示した金正日は米朝二国間協議と対北支援の「条件付き六者協議への復帰」を温家宝首相に伝えたという。だが過去の条件付き事前対北支援公約は、北政権が悉く反故にしてきた。過去を顧みて再び欺かれてはならない。

 外貨と食糧が枯渇した北政権は対北支援なしには存続できない。まさに崩壊の危機にある。無原則な見返り事前対北支援は断固容認できない。拉致犠牲者全員の解放と核兵器とミサイル、生物化学兵器の完全廃絶を確認後に「対北支援」を実行するという基本原則を可決し、徹底して厳守すべきである。

 国連は、国際連合憲章の下に世界の安全保障と経済・社会の発展のために協力することを目的に、国際的な共通の課題として、平和と安全の維持、人権の保護などを目的に設立された国際機構である。
「核兵器のない世界」を目指す国連が最初に実現すべき重大な任務とは、東西冷戦の過ちの産物である「板門店の壁」を即刻、韓半島から完全に除去することではないか。

 一九四七年十一月十四日、国連は、韓半島の南北統一案を可決していた。
 一九四五年のモスクワ協定による信託統治は、五年以内の撤収期限付き協定だった。
 旧ソ連は、一九五〇年までに韓半島から撤退を完了し、韓半島の南北平和統一の実現を支援する責務があった。だが侵略者は六十余年間も居座り、北朝鮮の国家と人民を蹂躙してきた。

 侵略者スターリンが作った傀儡北政権が、北朝鮮を植民地にして居座り人民を虐待する侵略犯罪は、モスクワ協定違反であり国連決議に背く不法占拠である。今こそ「韓半島の自由平和統一」を実現し、北朝鮮人民と韓国民、日本国民と在日の大願である拉致犠牲者全員の救出と北東アジアの非核化と平和と共生を実現すべではないのか。

 諸外国の市民を拉致する人権侵害は、諸外国の主権を侵犯する犯罪である。
 拉致と粛清は、国家やテロ集団による最も卑劣な人権侵害である。
 拉致と粛清の撲滅を最優先で解決する行動が伴わない軍縮と核兵器廃絶の訴えは、問題の核心を知らず、無視、放棄した本末転倒の空虚な掛け声である。

 今こそ、世界各国の指導者と地球市民は、拉致と粛清の人権侵害撲滅を国連という舞台で正々堂々と主張し、世界平和の礎を築くべきだと、厳かに提言する。

 フランスの行動する作家ロマン・ロランは叫んだ(山口三夫訳)。
「立ち上がれ、そして断固たる心を持って戦うのだ」と。

 アメリカのジャーナリストであるノーマン・カズンズ氏は、「我々が恐れなくてはならない牢獄があるとすれば、それは結局のところ、我々の無気力と優柔不断だけである」と語っている。

 幕末の激動期に新時代の道筋を示し行動した勝海舟は「一身の栄辱を忘れ、世間の毀誉を顧みず、自ら信ずるところを断行せよ」と説いた。
 今、北東アジアの市民が、自ら進んで連帯・同盟行動を起こそうとしている。

 日本では「日本人拉致被害者家族会」「救う会」「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」「北朝鮮難民救援基金」「特定失踪者問題調査会」「北朝鮮強制収容所をなくすアクションの会」等の有志が「すべての拉致被害者を直ちに返せ!」と声高に訴えている。
 韓半島では韓国民と脱北難民の決起に続き、北朝鮮人民も密かに行動を起こした。
 在日では北送反対運動の民団一世のみか、元朝鮮総連一世の呉貴星、張明秀氏を始め多くの指導者が「家族と友人、教え子を北送したのは過ちであった。北政権は北送拉致犠牲者を返せ!」と糾弾してきた。民団二世も個人の意思で行動を起こした。

 そして今、@拉致犠牲者全員の解放(自由往来実現)、A北政権の核兵器廃絶、B韓半島の自由平和統一実現(北朝鮮解放)を掲げた在問研が発足し、行動を起こした。

 米国では「YES WE CAN」の声が木霊し、時代をチェンジする行動が起きている。世界有数の富豪家の米国のビル・ゲイツ氏は企業家から慈善活動をライフワークに、巨額の資産を基金に財団を設立、貧困と難病で苦しむ世界市民の救済行動を起こした。
 この民意による時代変革の行動は、今、地球の各地で芽生え、急速に拡大している。
 民意による民意のための行動が時代をチェンジしている。

 地球文明の主権者である人々を奴隷にする野蛮な独裁暴君の跋扈する暗黒の時代を終焉させ、人民が主人公になる地球人時代を創造する無名無冠の人々の胎動も聞こえ始めた。
 この素晴しき自由と人権を尊ぶ時代変革の偉大な人々に、絶賛の拍手を送りたい。

 闇が深ければ深いほど暁は近い。美しい地球を拉致する暗黒の闇を吹き飛ばすのは、夜明けの光り輝く旭日である。その日光が水平線の彼方から今、正に昇ろうとしている。
 自然界と大宇宙の不可思議な神秘の摂理は、現実の社会でも厳然と脈動している。

    詳しくは書籍「拉致と朝鮮総連」に綴りましたのでご参照頂ければ幸甚であります。

     2009年12月14日 提言者 在日コリア問題研究所 理事長 鄭龍男